会長敬白
6.見た・乗せた・持って帰った・みんな呆れた
「うん。乗っとる、乗っとる」
「それにしても乗せる時のあの車体の軽かったコト」
「オレのオレの・・・う~んオートバイ屋になって良かった」
「すぐに段取りすれば、明日には乗れる!」
「どんナンだろうなぁ。多分、あんなんで、こんなんで・・・」
「ムふっ。むフフフフ・・・」
開業の年をほぼ無事に越して迎えた新年。軽トラの荷台に意識の95%以上を向けて、眼は虚ろ、口元は半開き。時々ニヤニヤ。R2沿いにあるスズキディーラーから当時お店の在った十日市を目指し、まるでイケナイ薬服用状態でひた走る私でした。87年の春は名ばかり、まだまだ寒い日の午前中のことでした。
お店に入るために中央分離帯切れ目をUターン。お昼前ってこともあり、かァーちゃんとお客さん、モトイ、常連が3人くらい居てこっちを見ている。かァーちゃんを除いて、皆さん全員が口をアングリ。
「みんなビックリじゃろナー。そりゃそうよナー
なんてったってドゥカじゃからなぁ。
タダのドゥカじゃ無いし。ムふっ。むフフフフ・・・」
と、思いながら、慎重に荷降ろしスペースに駐車。後から聞き及ぶに、私がUターンすること数分前、以下のような会話が店内であったとか。
「ありゃ。おトーさんお出掛けかな。検査?」
スズキに行ったんよ。検査ならエンじゃけど
「スズキ?GSXRの商談でも有ってお客さんと同行なら
エエことじゃが」
独りでバイク見に行ったんよぉ。それが。
昨日行って、今日また
「なんでまた2日も続けて」
モンジュイが出てきたんよ。スズキに
「モンジュイ!そりゃおトーさん喜んだろ。熱も入る。
でも限定完売したてだし、高額在庫になるから難しいなぁ。
誰が買うのか見張りにでも行ったんかな」
いいや。仕入れと違うんョ。自分用のつもりらしい
「自分用?そりゃ余計に難しいじゃろう。大きなお世話じゃけど」
それが「もう1回『見に行く』。『念のために』お金
持って行きたい」って、結局お金持って行っとんよ。
百ウン十万も。ありゃ買ってくるなぁ
「いくらナンでも・・・あっ!帰って来た。あれれ!
乗せとるで。赤/銀のカウル」
開店前の「販売店にしてよ」押掛け陳情上京時、村山さんのショールームで出会ったモンジュイ。「私綺麗でしょ?」って彼女の言葉がココロの真ん中に鎮座して、まだ1年も経たない頃、スズキの営業マンS君が仕事の合間に現れた。
彼の悪い予感が的中し、営業成績には全く協力出来てなかった当店。仕事抜きでゆっくり時間調整出来るお店として担当していだいた。いつものようにかァーちゃんと世間話。まぁたまには営業担当らしいコト言ってみる気がしたのか、
「そりゃそうと今度出たGSXR750、おトーさん乗らんかな?
カタナ高く下取りさせて貰いますよ」
財務内情知っているから彼としても100%ダメ元の営業トーク。かァーちゃんとしたら、そんなの買ったら釣り銭、いや明日のおかずも買えなくなってしまうと、
「いやー、ウチのおとうさんはドゥカが欲しいらしい、
去年出たモンジュイっての。あんだけカタナに惚れ込んで
手に入れたんだから、国産車はあれでもうイイって言ってる」
との逃げ口上が聞こえた。そうか・・・覚えていてくれたんじゃ。モンジュイの事。さすがオレのヨメさん。時々怖いけど。
と、ところが数日後。いままで見たことの無い満面の笑顔で現れたS君。
「有ります!ウチの直営店に。ドゥカ。しかもカウルに
しっかりモンジュイックと書いてあるドゥカなんですよ」
と、コーバに向かって言う。えっ!!持ってた工具を放り出して、5歩の全力疾走でS君にガブリ寄る。
「ホッホッ・・・ホンマに?」
「ええ、モンジュイックとちゃんと書いてあります」
「すぐ見に行くから会社に電話しといてくれる?
すぐ行くから!今すぐ」
嘘じゃろ、まさかモンジュイが岡山に・・・世界中にたった200台、去年すぐに完売されたモンジュイが岡山に有るってか?カタナに飛び乗って用水路の橋歩道5メートル。後方確認、さぁ人絹道路合流!・・・あっ、いかん。ヘルメット被っていない。慌てて自分の足で走って引き返す。すっかり少年している35歳の私。道中、ハートビートは5割増し。一気に目指すはスズキ直営店。今になって思うに途中の信号をちゃんと守ったかどうだか、今更ながら気に掛かる。
おォ・お・お・お~おっ
「ホンマにモンジュイじゃ。ホンマに」
夢中の先に見えたのはまぎれも無いモンジュイだった。何故だか3メートルの距離を置き、呆然と眺める夢のバイク。「触ってもいいですか?」と喉まで出かけた言葉を飲み込ませてしまう程のオーラを放出されている以上に勝手に吸収。更に体内で増幅。爆発寸前の我が心臓。完全過呼吸状態。そのままの距離を置いて、外見からは焦点の合っていない瞳を見開いて立ち尽くす私。心配してか、お店の人の方が近づいて来てくださった。
「にひゃく・・・ですか・・・。下さい。買います。売ってください。イイですか」
と、一方的に言葉を残してお店にトンボ帰り
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